嘘は溺愛のはじまり
「次は専務の所ね」
野村さんはそう言いながら、専務室をノックした。
返事が聞こえるかと思いきや、すぐに向こう側から扉が開かれて「待ってたよ、入って入って!」と招き入れられる。
篠宮専務の専属秘書は、男性だった。
笹原さんと言う方らしい。
綺麗な女性秘書を想像していた私は、すっかり肩すかしを食らったような気分だ。
「専務がニコニコしながら『野村さんの補佐を雇った』って言うから、社内はもう大騒ぎだよ」
「あー、総務とか人事がねー」
「そうそう。どちらかから行くと思われてたから……」
「ですよねぇ」
「でもまぁこう言っちゃなんだけど、いまの総務も人事もちょっとした人材不足だから、僕は若月さんで良かったと思うけどね」
「笹原さんに同感です!」
そう言いながら野村さんは深く頷いた。
総務も人事も忙しくて人手不足、なのかな。
大きな会社だし、きっとそうなのだろう。