嘘は溺愛のはじまり

ひとり密かに納得していると奥の扉が開いて、篠宮専務が顔を出した。

専属秘書の笹原さんは、さっきまでの楽しげな笑顔をサッと仕舞って仕事モードの真面目な表情へと切り替えていて、野村さんも頭を下げている。

公私の切り替えが早い。

私も野村さんに倣って、慌てて頭を下げた。


「ああ、かしこまらなくて良いから、頭を上げて。他への挨拶は済みましたか?」

「はい、常務と一緒に外出されている矢野さん以外は、済みました」


野村さんの返事に、篠宮専務は柔らかく微笑んだ。


「野村さんの残業を長らく放置して、すみませんでした。なかなか適材が見つからなくて」

「いえ。若月さんみたいな人を求めてたので。ここまで待った甲斐がありました」

「そう言っていただけて良かったです。フロア案内は、この後ですか?」

「はい、今からです」

「そう。広いから迷子にならないようにね」


篠宮専務の言葉に野村さんが顔を赤くしていると、「野村さんは前科あり、だもんね?」と笹原さんが笑った。


「専務も笹原さんも、それ、そろそろ忘れて下さいー!」

「ごめんごめん。野村さんは方向音痴だから心配だな。案内、僕が変わろうか?」

「もうっ、笹原さんっ! だから忘れて下さいってば! それに、さすがにもうちゃんと覚えました!」

「あはは、だよね、知ってた」


秘書課の皆さんはみんなとても優しそうな人ばかりで、とても仲が良いらしいと言うことが分かった。

おかげで、ガチガチに緊張していたけど、かなり解れたと思う。

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