嘘は溺愛のはじまり
――玄関でパンプスを脱ぎながら、ふぅ、と小さく息を吐き出す。
楓さんと一緒じゃなかったら、私は、きっと……。
携帯をポケットから取り出し、まだ伊吹さんからの連絡がないことを確認する。
同居させてもらうことになった時に、お互いの帰宅時間を知らせ合うことを取り決めていた。
いつも私が先に帰っていて、夕飯の支度をしながら伊吹さんからの連絡を待つのが同居を始めてからの日常だった。
今はまだ8時すぎ。
取引先との会食なら、帰宅するのはまだまだ先だろう。
リビングのソファにドサリと腰を下ろし、ソファのふかふかの背もたれに背中を預ける。
優しく包み込むようなこのソファは、少し伊吹さんに似ている。
伊吹さんの持ち物は、どれも全部、どこか優しい。
伊吹さんが意識して選んでいるからなのか、それとも、伊吹さんが選んだ物だから私が勝手にそう感じてしまうのか……。
最早どちらなのか分からないけれど……。
そして……。
つい数十分前の出来事と同時に、何ヶ月も前のことを、頼んでもいないのに勝手に思い出してしまう私の頭の中を、誰かどうにかして欲しい……。
何度思い出して、何度こんな切なくつらい気持ちになればいいのか……。
楓さんがいなければ、カフェからの帰り道、私はきっと……いや確実に、泣いてた――。