嘘は溺愛のはじまり
――私の中でもまだ、ここ二週間ほどの急激な状況の変化には戸惑うばかりだった。
そもそもの始まりは、私があのカフェ『infinity』を、初めて訪れた日――。
まだ印刷所に勤めていた、今からおよそ一年前のこと。
その日は仕事でちょっとしたミスをして、私はすっかり落ち込んでしまっていた。
お客様にも同僚にも迷惑をかけてしまって……。
あまりにも落ち込みすぎたのか、自宅最寄り駅からの帰り道、いつも曲がるべき道をひとつ間違えたことにさえ気付いていなくて。
……ふと顔を上げると、そこは完全に見知らぬ世界だった。
「――え? ここ、どこ……?」
目の前にあったのは、控えめな看板の掛かった、落ち着いた雰囲気のカフェ。
このお店を更にもう少し歩くと、バーやスナックなんかが多い界隈だ。
ほとんどお酒を飲まない私には用事のないエリアだったから、こんなこじんまりとしたオシャレなカフェがあるなんて、気づきもしなかった。