嘘は溺愛のはじまり
引き寄せられるようにふらりと足を踏み入れると、店構えと同じく落ち着いていて優しい雰囲気の男性が「いらっしゃいませ」と控えめに挨拶をしてくれて……。
外から見たままの、やっぱり優しくて穏やかな雰囲気の店内に思わずホッとする。
入ってすぐの所にあるカウンターから「おひとりですか?」と低く心地の良い声で話しかけられた。
「はい……」
「よろしければ、こちらにどうぞ」
勧められたのは、その男性のすぐ目の前のカウンター席だった。
私は勧められるままに、そこへ腰を下ろす。
私に声を掛けてくれたその人は、恐らくここのマスターなのだろう。
年の頃は、私の父と同じぐらいだろうか。
にこりと笑うその目元の笑い皺が、とても優しい印象を与えていた。
そして、伊吹さんに出会ったのも、この日、この直後――。
カウンターでマスターが淹れてくれたコーヒーを飲みながらお話をしていると、不意に、マスターは私と話をしながらコーヒーをドリップする準備を始めた。
どうやら私はマスターとの会話に夢中になってしまい、お客様が入ってきたことに気付かなかったらしい。