婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
(宗一郎さんに復讐しようとしているのかもしれない)
奈子は思わずスマホを握りしめ、窓の外を見ていた。
宗一郎がいる方角を。
「でも、GAIにホーズキが買えるんですか」
衝撃から立ち直ったのか、樹がふと思いついたようにつぶやく。
奈子は記事の続きをスクロールして答えた。
「プレミアムは三十パーセントくらいだけど、低く見積もって三兆円規模だね」
TOBでは大抵、市場株価より高い価格で株式を買い付ける。
ホーズキの株を持っている投資家がそれを売りたいと思ってくれるように、GAIは直近の株価に三十パーセントを上乗せして利益をつけていた。
だけど業績が低迷していたとはいえ、そもそもホーズキの株は安くないし、これを買い取るためには莫大な費用がかかる。
「執念ですね、多々良亮はよく資金調達したなあ」
樹が感心してうなずく。
GAIは外資系の投資ファンドで、多々良が顧問に就任した一年前からは日本でも急速に力を伸ばしている。
とはいえ、ホーズキを敵対的に買収するなんてほとんど無謀な企てだった。
日葵がタブレットを樹に押しつけ、テーブルの上をどんどん片付けていく。
一秒でも早く仕事に戻りたいのだろう。
「鬼灯グループの同族経営に批判があるのは事実だから。実際、鬼灯禅の時代には業績不振に陥りかけてた。一度社長になってそれを正そうとした多々良なら、資金も集めやすい。それだけ、鬼灯宗一郎が多々良派との関係に禍根を残してるってこと」
みんなニュースに気づき始めているのか、フロアが慌ただしくなってくる。