婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
たとえば組織再編などでグループ企業を子会社化するときには、買収される会社はTOBを了承していて、株式は友好的に買い取られるのが一般的だった。
だけどホーズキが決めたことではないのなら、おそらくこれは敵対的買収になる。
GAIがホーズキの同意なく経営権を奪おうとしているということだ。
奈子は困惑して眉をひそめる。
「GAIが目指しているのは役員体制の見直しなの?」
日葵がタブレットを操作して、べつの画面を表示させた。
「公告資料の主張をまとめると、GAIがやりたいのは、同族経営からの脱却、事業の選択と集中、それに伴う企業再編ってところかな」
それは多々良がホーズキの社長を務めていたときから、ずっと目標にしていたことでもある。
でも期待されていたほど業績は改善しなかった。
多々良は社長時代に思うようにできなかったことを、ほとんど宗一郎が阻んだせいだと考えているのだろう。
本家の長男である宗一郎が社長を解任されれば、鬼灯家の同族経営に楔を打つことができる。
奈子は多々良亮のことを考えた。
宗一郎と多々良は経営方針をめぐって対立していた。
任期満了で社長を退任した多々良は、その後GAIの顧問に就任している。
結婚披露宴のさなか突然ふたりの前に現れ、奈子を憐れんだ目で見下ろし、宗一郎への憎しみを残して立ち去った。
永遠の幸せを祈りながら。