婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「行くよ、奈子」
気がつくと日葵はすっかりテーブルの上をきれいに片付け終わっていて、奈子の使った食器も一緒に木製トレイに回収してくれていた。
「ごめん、日葵。ありがとう」
奈子は握ったままだったスマートフォンを、慌てて樹に返そうとした。
そのときふと、ニュースの見出しが目に入る。
TOBの関連記事の中で、そこだけ閲覧済みになって表示色が変わっていたからだ。
「待って」
恐ろしさにぞっとする。
突然、氷の中に閉じ込められたみたいに肌が冷たくなった。
「あ、茅島さん!」
樹が焦って腕を伸ばそうとする。
「それは本当に、全然関係ないです!」
「奈子!」
日葵も内容を察しているのか、鋭く警告してくる。
だけどふたりとも両手が塞がっていて、奈子を止めることはできなかった。
きっと、これを読むまでは息もできない。
奈子は樹からスマホを遠ざけ、記事を開いた。
記事には結婚披露宴の写真が使われていた。
花嫁が鬼灯宗一郎の腕に手を添え、真っすぐに見上げている。
ウエディングドレスのバックリボンがきれいに写っていて、花嫁の顔は見えない角度から撮られていた。
でも奈子はこのとき、花嫁がどれほど焦がれるように宗一郎を見つめていたか、ちゃんと覚えている。