婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子は記事を最後までスクロールして、息を吐き出した。
樹にスマホを返す。
「これでホーズキは、ちょっと不利になっちゃったね」
まともな理性があるなら、ホーズキの株主は宗一郎に不信感を持つだろう。
頭の中は冷静だった。
奈子が今まで必死に考えないようにしていたことを、そっと教えられただけ。
宗一郎がかけた魔法を、記事が解いてくれたのだ。
「茅島さん」
なぜか樹が泣き出しそうになりながらスマホを受け取る。
「俺、目をつけられてるからわかりますよ。鬼灯宗一郎が本当に茅島さんのことを好きでもないなら、俺はあんなふうに威嚇されないです」
奈子は口を引き結び、荷物をサッとまとめた。
途端に、バッグの中でスマホが音を立てる。
奈子はそれを引っ張り出して、発信者を確認し、すぐに通話を拒否した。
日葵が心配そうに眉を寄せる。
「奈子、私も樹と同じように思うよ。鬼灯宗一郎が記事に書いてある通りの男なら、私は奈子の結婚を祝ったりしない」
奈子は笑って首を振った。
「いいの、あとでかけ直すから。今は私とゆっくり話してる時間もないと思うし」
またすぐに手の中でスマホが震える。
いつも電話なんて滅多にかけてこないくせに、なんだかおかしかった。
宗一郎はなにを言うつもりなのだろう。
本当は話を聞くのが怖い。
(もしも謝られたら、どうしたらいいの)
これ以上、奈子をかわいそうだと言わないでほしい。