婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
佐竹や悠成なら、きっとこんな動揺はしなくてよかった。
いつでもそばにいて、頭の中を切って覗いたように理解しているのだから。
でも奈子には、宗一郎の考えていることがわからない。
記事は正しい。
その意味では、たぶん宗一郎でさえ気づいていなかったことを知っている。
宗一郎は、奈子を好きになって結婚したのではない。
ふたりは愛を誓ったことなんて一度もない。
恋をしているのは、奈子のほうだけ。
奈子は突然逃げだしたくなって、ついに電源を切った。
これでもう宗一郎にはつながらない。
奈子はいつも圏外にいる。
午後は会社にいるのがつらかった。
烏丸証券に勤めているのなら、例外なくTOBに関するニュースを調べるはずだ。
宗一郎を貶め、花嫁を憐れんだ記事も見つけただろう。
奈子の写真はどこにも載らなかったけれど、烏丸証券の社員は、花嫁がどんな顔をしているか知っている。
仕事には集中できないし、遅くまで残っているのも迷惑なので、奈子は定時を過ぎたらすぐに会社を出ることにした。