婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

そのときふと、なぜだか見られているような気がして顔を上げた。
正面に座った女性の大きな目が、じっと奈子に向けられている。

奈子はとっさにスマホをバッグの中に戻した。
女性が笑って首をかしげる。

「いいんですか、連絡しなくて。今しかなかったのに」

奈子は眉を寄せた。

もう一度まじまじと女性を見返してみたけれど、奈子の知っている人ではなかった。
宗一郎の知り合いだとしても、結婚披露宴にはいなかったはずだから、奈子は会ったことがない。

女性が膝の上に愛らしく頬杖をつく。

「私、杉咲(すぎさき)由香里(ゆかり)っていいます」

耳にしたことのある名前だと思った。
でも、いつ誰になにを聞いたのか思い出せない。

杉咲が奈子をじっと見つめてほほ笑む。

「あなたは、鬼灯奈子さんですねよ」

奈子はバッグをギュッと胸に抱えて引き寄せた。

「ごめんなさい、どこかでお会いしましたか」

「ううん、あなたに会うのは初めてなの。でも宗一郎くん、今日は電話に出てくれないから。奥さんのほうから話を聞こうかなと思って」

杉咲は親しそうに宗一郎の名前を呼ぶ。
少なくとも、連絡先を知っている間柄ということだ。
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