婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子は口を引き結んだ。
杉咲が身を乗りだしてささやく。
「どうだった、私の記事」
それで突然、思い出した。
杉咲は多々良と懇意にしている記者だ。
日葵が教えてくれた。
多々良は宗一郎の功績もすべて自分の手柄のように報道させていて、とくに杉咲という記者が書いたものは信用が低かったと。
誰からあの写真を買ったのかは知らないが、奈子をかわいそうだと書いたのは、目の前の杉咲由香里なのだ。
奈子はパッと立ち上がった。
「失礼します」
立ち去ろうとする奈子の手首を、杉咲がすばやく掴む。
「待って」
ピンクベージュのネイルが肌に食い込んで痛む。
奈子は手を振りほどけなかった。
「言ったでしょ、私、あなたに聞きたいことがあるの。宗一郎くんってば、ちょっとひどいもの。あの記事、すごく反応いいよ。みんなあなたに同情してる。話を聞かせてくれたら、宗一郎くんのこと、私がもっと書いてあげる」
奈子にはそれがはっきりと脅しに聞こえた。
拒否すれば、杉咲は何度でも宗一郎を貶める記事を書く。
ホーズキの株主だけではなく、世間のみんなが宗一郎を批判するようになるだろう。
それでも杉咲を否定できないのは、ふたりが政略結婚をしたのが事実で、宗一郎が家に帰ってこないのも、奈子だけが宗一郎に恋をしているのも、すべて本当のことだからだ。
記事にうそはひとつもなかった。