婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「もう書かないでください」
奈子は必死にささやいた。
祈りに似た奈子の懇願に、杉咲が首をかしげてあざ笑う。
「なんで? 私は記者なのに」
奈子はどうすればいいのかわからなくなった。
でも宗一郎を守るためには、きっと杉咲を挑発しないほうがいい。
奈子が怒って立ち去れば、明日の朝、宗一郎の立場はさらに悪くなっている。
ここに残っておとなしく杉咲の思い通りになれば、奈子が宗一郎か佐竹にこのことを伝えるまで、新しい記事は書かないでいてくれるかもしれない。
(宗一郎さんの不利になることはできない)
奈子は黙ってソファに座り直した。
杉咲が満足そうにほほ笑む。
「偉いね。宗一郎くん、あなたのことを賢いって褒めてた。私はあなたの味方だから」
奈子は目眩をこらえて、じっとテーブルの上を見つめていた。
膝の上で手のひらを丸く握る。
この先は、なにを聞かれても動揺してはいけない。
「宗一郎くん、婚約の記事を私じゃない記者に書かせたでしょう。誰に頼んだのか知ってる?」
杉咲はいきなり奈子の傷口を言い当てた。
奈子は婚約記事を書いた記者どころか、本当に宗一郎が指示をしたのかどうかも知らない。