婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
なにも見ないふりをして、宗一郎に委ねることにしたのだから。
宗一郎の好きなほうでいいなんてうそぶいて、心の底では、真実を知るのが怖かった。
だけど杉咲がうそを書かなかったことを考えると、宗一郎が婚約記事を書かせたというのも正しいのかもしれない。
奈子は目を伏せたまま答えた。
「いいえ」
杉咲が残念そうにため息をつく。
「私も知らないの。ずっと仲良くやってると思ってたのに、ちょっと嫉妬しちゃった。裏切られたみたいな気持ち。あなたもそう思わない?」
それで多々良と結託して、宗一郎を貶める記事を書いたのか。
杉咲と奈子は違う。
たとえどんなことをされても、奈子は宗一郎を傷つけようとは思わない。
「いいえ」
杉咲は目を丸くした。
「へえ、許してあげたの? ほんとに優しいね。私だったら耐えられないな、好きな人にそんなことされたら」
コーヒーに手を伸ばして、たった今思い出したようにつぶやく。
「あ、そっか。政略結婚なんだ」
奈子は呼吸を小さくした。
なにも考えず、ただ機械みたいに、質問に答えていればいい。