婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子はいつものように十一階のオープンオフィスにいた。
ひとり掛けのソファに座って鬼灯製薬のバランスシートを読んでいる。
連休中は宗一郎がなるべくそばにいてくれて、奈子を甘やかし、両親にも経緯を説明し終え、杉咲のしたこともほとんど気にしないでいられるようになった。
でも、体調だけがいまいち回復しない。
ただ落ち込んでいたときとは違い、なんとなく気だるいことがあって、ずっと立って仕事をしているのがつらくなる。
それでここのところ、窓辺にあるお気に入りのスタンディングデスクを使うのをやめていたのだった。
「奈子、そこにいた!」
突然、日葵がフロアを勢いよく走ってくる。
奈子はきょとんとして日葵を見上げた。
「どうしたの」
まだ午後一時半で、株式市場は動いている。
昼休みにも会ったばかりだし、日葵が取引も終わらないうちに仕事を離れているなんて滅多にないことだった。
息をはずませた日葵が奈子の肘を掴み、立ち上がらせる。
「ついてきて、鬼灯宗一郎がすごいことやってる」
目を丸くした奈子をそのままぐいぐいと引っ張って、十階にある会議室へ連れていった。
ミーティングで使われる狭い部屋の中に二十人くらいが詰めかけている。
大きなテレビを掛けた奥の壁以外はガラス張りになっていて、その周りにはさらに数十人の社員が集まっていた。