婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「いい、鬼灯中央研究所は五万量子ビットを超えるコンピュータを開発していて、量子超越性を達成したの。つまり、今までのコンピュータでは途方もない時間がかかった計算を、数秒で解決できるようになった。そこまでは知ってるよね」
奈子は小さくうなずいた。
鬼灯製薬は去年その量子技術を実用化し、創薬研究を進めている。
量子力学のことはよくわからなかったけれど、奈子は製薬業界を専門にしていたので、必死に勉強をしたのだった。
日葵が先を続ける。
「鬼灯中央研究所はその気になれば、R S A暗号を解けるようになった。量子コンピュータは素因数分解が得意だから。それで次は、量子暗号を開発してしまった。今の科学で考える限り、量子暗号は決して破られることのない、究極的な技術なの」
カメラがまた宗一郎を映す。
『量子暗号が実装されれば、鬼灯グループのセキュリティは世界でもっとも安全です。今後みなさんがホーズキのスマートフォン端末を通して、決済や投資や医療を利用するようになっても、情報は必ず守られるでしょう。さて、なにかご質問があればどうぞ』
宗一郎が演説をしめくくると、記者席から次々に質問が上がる。
奈子は呆気に取られて宗一郎を見つめていた。
八雲京が説明した研究内容についてはいまいち理解できなかったけれど、きっとこれから世界を変えてしまうのだということはわかる。