婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
樹が隣で感心したようにつぶやいた。
「これでホーズキの株価は上がりますよね。みんなが買いたがるだろうし、今の株主たちは、GAIなんかにあげないほうが儲けますよ。俺なら絶対に売りません」
烏丸証券の社員たちにはそのことが衝撃だったのか、会議室に集まったメンバーもお互いにTOBの件をささやき合っている。
スクリーンでも買収に関する質問が飛び出した。
『この発表は実質的にTOBへの対抗策と考えてよろしいのでしょうか』
それを追うように、女性記者の声が鋭く響く。
『鬼灯社長は茅島頭取のお嬢さんと政略結婚をされたとの報道ですが、量子暗号は当然、あかり銀行にも実装されますよね。今回の件で、なにか取引があったのですか』
宗一郎が驚いて目を見開いた。
発表内容と関連のない追及なのだから、虚をつかれて当然だ。
日葵が奈子の肩を強く掴む。
とっさに英語で悪態をつくと、怒って画面にヤジを飛ばした。
「なに、この記者! 量子暗号と全然関係ないでしょ」
烏丸証券の会議室は不満の声で包まれる。
画面の中もちょっとした騒ぎになって、司会者が宗一郎をステージから引き退らせようとしていた。
『すみません、プライベートに関するご質問はお控えください!』
『いや、いいよ』
宗一郎が司会者を制止して、深刻そうに演台の前に進み出る。
立ち位置が変わったせいでカメラの向きが動き、うしろ姿しか見えなかった女性記者の横顔がちらりと映った。
奈子はハッと息をのみ、思わず片手で口元を覆った。