婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
樹が眉を寄せて奈子を見下ろす。
「茅島さん、もしかしてこの記者が杉咲なんですか」
奈子は目眩がしそうなくらい緊張して、日葵にしっかりと腕を掴まれていなかったら、そのままうずくまっていたかもしれない。
『たしかに妻とは、茅島頭取の紹介で出会って結婚をしました』
宗一郎がはっきりと認める。
それからふと、目尻を下げて優しく笑った。
『でも、愛しています。すべてをかけて大切にしたい。だからこの先どんな批判を受けようと、妻のことは、それ以上なにもお答えできません』
会議室はわっと騒がしくなった。
日葵が高らかに笑って奈子を抱きしめる。
「ほら、言ったでしょ! 私は鬼灯宗一郎を評価してるの」
奈子は口を引き結び、耐えられなくなって手のひらに顔をうずめた。
知らなかった。
宗一郎が、奈子を愛しているなんて。
今まで一度も言ったことがないくせに。
でも、うそではないとわかる。
いつも奈子が腕の中にいるときと同じように、正直にほほ笑んでいたから。
日葵がギョッとして奈子を覗き込む。
「あ、ちょっと! ここで泣くなって言ってるのに」
「茅島さん、株価暴落しちゃいますよ」
樹が慌てて奈子を隠すように立つ。
だけど会議室は宗一郎の告白に盛り上がるばかりで、奈子がここで泣いていることには、誰も注目しないのだった。