婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
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宗一郎はホーズキ自動車の黒いラグジュアリーセダンに乗り込むと、運転席の佐竹からタブレットを受け取った。
すでに鬼灯中央研究所の量子暗号がニュースになり、株価も動き始めている。
「勢いよく株が上がっていますね。ホーズキも、あなたも」
佐竹がバックミラーに映る宗一郎をちらりと見る。
「最初にTOBに関する質問をした男性は、私が婚約記事を書かせた記者なのですが、宗一郎さんはご存じでしたか」
「いや、知らないよ」
宗一郎は顔を伏せたまま答えた。
「そうですか」
佐竹が小さくつぶやいて前を向く。
「杉咲はあの質問を聞いて、政略結婚の話題も持ち込めると思ったでしょうね。もしかしたら、宗一郎さんが年次開発者会議に登壇すると知ってから、ずっと質疑応答を狙っていたのかもしれません。あなたが基調講演を行うと聞いたときは、私も首をかしげましたが」
宗一郎は黙ってタブレットを眺めていた。
杉咲の質問は動画で切り取られ、宗一郎が告白をするところまで、SNSにしっかり拡散されていた。
あとは世間が勝手に判断するだろう。
車が赤信号で止まる。
「すべて宗一郎さんの思い通りだったのですか」
宗一郎は肩をすくめ、窓の外に目をやった。
「さあ、どうかな」