婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
結局、TOBは不成立に終わった。
年次開発者会議の翌日、ホーズキの市場株価は十パーセント上昇していた。
株主たちはホーズキ株を保持したほうが得策と考え、GAIはそれ以上買付価格を上乗せする資金がなく、取得目標株数まで集めることができなかった。
ホーズキにTOBを仕掛け、成功させられなかった多々良は、遠くないうちにGAIの顧問を退任することになるだろう。
とはいえ宗一郎が仕事に熱心なのは相変わらずで、奈子は大抵、書斎で本を読みながら夫の帰りを待っている。
でも、必ず迎えにきてくれると知っていた。
書斎のドアが開き、奈子はハッとして振り返る。
ダークネイビーのスーツを着た宗一郎が立っているのを見て、奈子はにっこりと笑った。
「おかえりなさい」
宗一郎が部屋を横切って、奈子の額にキスをする。
「ただいま、奈子」
そのまま奈子の隣に座り、小ぶりのソファでは窮屈そうに長い脚を組んだ。
奈子が読んでいた本のタイトルを知り、片眉を上げる。
「オランダ史?」
奈子は目を輝かせてうなずいた。
「宗一郎さんにオルデンバルネフェルトの話を聞いて、気になって調べていたら夢中になっちゃって」
「きみ、オランダにも詳しくなるつもりなのか」
「イングランド女王エリザベス一世の寵臣だったレスター伯は、ちょうどこの頃オランダ遠征にきているんですよ。オルデンバルネフェルトと関わりがあったと思いますか」
宗一郎がまぶしそうに目を細めて、奈子の話を聞いている。