婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

泣く必要なんてない。
そもそも鬼灯グループのための結婚なのだから、このくらいのことは予測しておくべきだった。
優しさに惑わされて、勝手に期待していたせいだ。

(もしかしたら、宗一郎さんを好きになれるかもしれないなんて)

今ではフロアにいる誰もが、遠慮なく奈子の反応をうかがっている。
仕事だから当然だ。

混乱しているだけなのに、こんなところで泣いていたら、ホーズキとあかり銀行の関係悪化さえ勘繰られるかもしれない。

わかっているけど、涙は止められなかった。

「日葵、今まで言えなくてごめんね。だけど私、記事のことは本当に知らなくて」

奈子は次々にこぼれる涙を拭い、震える声で言い訳をした。

「しーっ! いい子だから、もう少しがんばって」

日葵が奈子の肘を掴み、オフィスの外に連れ出してくれる。
腕を引かれながら、奈子はギュッと強く唇を噛んだ。

鬼灯宗一郎のことなんて絶対に理解できない。

婚前契約書のことも、婚約記事のことも、どうして奈子に相談しようと思ってくれないんだろう。

たとえ反対が許されないとしても、こんなふうに知らされるのは耐えられなかった。
まるで奈子には関係のない出来事のように、なにもかも決められていくのは。

政略結婚だとわかっている。
宗一郎が結婚を商談か取引のように考えていることも。

(だけど宗一郎さんは、いったい誰と結婚するつもりなの)
< 31 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop