婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

日葵なら、宗一郎がすべてを話さなくても、こんなふうにそばにいられるのだろうか。

奈子は顔をしかめ、ナイフとフォークをお皿の上に置いた。

「あのさ、日葵」

アントレを食べ終えた日葵が、カゴいっぱいに追加してもらったパンにバターを塗りながら、片方の眉を器用に上げる。

「もし日葵が結婚するなら、婚前契約書を作る?」

「婚前契約書? プリナップのことだよね」

奈子は口をギュッと引き結んで小さくうなずく。
日葵が上品な仕草でパンを食べ終え、少し考えてから答えた。

「まあ、合理的だね。作るかも。アメリカにいる友だちが、プリナップのためにたくさんけんかしておいてよかったって。結婚してから大事なところで意見が合わないのも困るしね」

奈子はテーブルの上に身を乗り出した。

「でも、相手がよく知らない人だったら? それで、初めて会ったときにはもう契約書が作ってあって、ふたりの子どもをつくる時期まで決められていたら?」

宗一郎が作成した婚前契約書によれば、奈子は入籍から一年以内に妊娠することになっていた。
ふたりは契約に従って体を重ね、期限を過ぎても効果が見られなければ、不妊治療に協力する。

宗一郎は、会ったこともない女と子どもをつくる約束ができる。
それが奈子には恐ろしかった。

宗一郎がどうやって肌に触れ、優しくほほ笑み、甘い声でささやいて髪にキスをするか、すべて見せると誓うのは奈子でなくてもよかったのだ。
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