婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「いつか、好きになれたらいいけど」
また泣きたくなってきて、奈子は慌ててまばたきをした。
宗一郎と出会ってからずっと渦巻いていた不安と、ほんの少しの期待を打ち砕かれた寂しさが、次々にあふれてきて混乱する。
「奈子ってさ……」
日葵にじっと見つめられ、奈子は思わず身構えた。
「……なに」
日葵が深刻そうに眉を寄せてうなずく。
「ほんとにかわいいね」
「な、なに言ってるの!」
奈子は慌ててグラスを掴み、冷たい水を飲み干した。
ハッとして言い足す。
「ていうか今の、私のことじゃないからね」
「はいはい、わかってるよ。でも鬼灯宗一郎は後悔するね。こんなにいい子なのに、奈子を泣かせたんだから」
奈子はこっそり頬を膨らませた。
宗一郎がなにかを後悔するなんて、想像できない。
いつでも余裕たっぷりで、なにもかも思い通りにできるんだから。
奈子は振り回されてばかりいる。
デザートのクリームブリュレが運ばれてくると、日葵は目を輝かせて喜んだ。
にこにこしながらひと口目を味わい、何気ない調子で切り出す。