婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
それに、婚前契約書の内容そのものは奈子に不利なことはひとつもなかった。
ふたりの子どもさえできれば、仕事を続けても、子育てに専念しても、ベビーシッターを雇ってもいい。
生活費は十分すぎるくらい与えられ、万が一離婚した場合にも、奈子が得をするほどの取り決めになっている。
しかも顧問弁護士まで用意され、佐竹に連絡をすればいつだって契約の修正ができた。
「でも実は、私は鬼灯宗一郎を評価してるの。多々良時代は摂政みたいなもので、実際、経営をコントロールしていたのは常務だった鬼灯宗一郎なんだから。知ってる? 多々良は報道と懇意にして、鬼灯宗一郎の功績もみんな自分の手柄みたいに書かせてた。杉咲って記者の書いたものはとくに信用できない。鬼灯宗一郎が社長になったら、その記者もパタリと消えちゃった」
いつものミーティング中のような調子ですらすらとよどみなく話し続ける日葵が、ふと首をかしげた。
「さすがに、奈子との婚約まで進めているとは思わなかったけど。私の想像以上に腕利きってことかな」
多々良は事業の選択と集中を目指し、量子力学分野での研究を推し進めるために、鬼灯中央研究所をホーズキ本社に統合しようとしていた。
そのとき組織再編をめぐって対立したのが中央研究所社長の八雲京で、いとこでもある宗一郎が協力し、多々良を退任に追い込んだのが社長交代の真相だとされている。
奈子は眉を寄せて訝るように日葵を見た。