婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

「日葵って、鬼灯グループのこと詳しかったんだ」

父親がグループ企業の頭取で、宗一郎と結婚することになった奈子はともかく、経営状況から内部事情までちょっと怖いくらい知り尽くしている。

日葵が器用に片目をつぶる。

「だから言ったでしょ。私、今のところ鬼灯家に期待してるの。次男の悠成(はるなり)は鬼灯製薬の最高戦略責任者(CSO)に就任して、海外メガファーマーの巨額買収を準備中。三男の(れい)は外務省のキャリア官僚で、本家とはほぼ絶縁状態だけど、唯一、兄の宗一郎とはつながっているらしい。いとこの八雲京は量子力学の天才で、世界的注目を浴びている」

そして宗一郎は奈子と結婚し、あかり銀行の頭取とも縁戚になる。

「となれば、鬼灯グループがフィンテック事業を席巻するのは時間の問題だと思うな。近い将来、決済も投資も保険も医療も資産形成も、ホーズキのスマートフォン端末でみんな完結するようになるの」

日葵が目を輝かせて予言する。

「奈子の婚約者は、きっと鬼灯グループを復活させるよ」

奈子は椅子の背にぐったりと体を預け、ため息をついた。

「……なんか、くらくらしてきた」

改めて語られると、とんでもない一族だ。

誰と結婚するつもりでいるのか、わかっていないのは奈子のほうだったのかもしれない。

「いくら業績不振で同族経営を批判されようと、結局、鬼灯家は日本経済界の雄ってこと。まあ、次に奈子を泣かせたら、企業評価は下げとくから」

慰めるつもりがあるのかないのか、日葵はにっこりと笑って、空っぽになった奈子のグラスに、またたっぷりと水を注いでくれた。
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