婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子はパッと立ち上がって顔をしかめた。
「ホーズキにTOB?」
樹のスマホを受け取る。
十分前に配信されたネットニュースで、多々良が顧問を務める投資ファンドのGAIマネジメント・パートナーズが、ホーズキの株式に対する公開買付を行うことを決定したと報じられていた。
TOBは企業の合併や買収、または非上場化するために使われる方法のひとつで、価格や期間などを公告して大量の株式を買い付ける。
全体の三分の一以上を取得すれば株主総会の特別決議を単独で拒否できるし、二分の一以上なら取締役の選任と解任ができるようになる。
実際、GAIは五十一パーセント以上の株式を買い集めることを目標とし、達成できれば鬼灯宗一郎を社長から退かせると宣言していた。
つまり多々良亮は、ホーズキの経営を支配しようとしている。
「リリースきた!」
日葵が顔を上げ、タブレットを掲げる。
「ホーズキはさすがだね、対応が早いよ」
奈子と樹は肩を寄せ合って画面を覗き込んだ。
たぶん日葵も同じニュースに気がついて、すでに情報を探っていたのだろう。
ホーズキはGAIの公示に関して、事前通告がなく、TOBは取締役会の賛同によって実施されるものではないと伝えていた。