彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
連絡を絶ったあとで妊娠に気が付き一人きりで出産育児をしていたと聞くと、田所あおいに少なからず同情する気持ちが生まれる。
だからといって俺の子どもだと言い早希の心を乱したことは絶対に許せないし許すつもりはない。

「離婚したと言うし連絡したらどうだ。父親なんだろう、協力してもらえ」

「リキは私の子どもです。私がここまで育ててきたんです。この先だって私が一人で・・・」

それはわかっている。
これまでのことで意地もプライドもあっただろうが。

「・・・片親で育つからどうだなんて言うつもりは毛頭ないですけど、レイフさんには自分の子どもの存在を知る権利があるし、養育の義務もあるんだからきちんと知らせたらいかがですか」

「でも、生活に困って連絡してきたって思われるのは嫌」

「実際、生活に困っていますよね。私たちのところに嫌がらせをするくらいには」

早希にはっきりと言われて田所あおいは気まずげに視線を下げた。

「・・・申し訳ございません」

「謝罪よりも行動をしてくれ。高橋さん、申し訳ないがレイフ・カーヴィンの連絡先はわかるかい?」

「はい、副社長。会社、個人共に電話番号を控えておきました」
さっとメモを渡され「ありがとう、流石だね」とお礼を言うと「当然です」と笑顔で返された。
笑顔なのに目は笑っていない。早く何とかしやがれこのヤロウと思っているな、絶対に。

高橋さんの怒りを受け止めつつスマホを取り出してタップした。

その様子に焦ったらしい田所あおいが「待ってください、心の準備がーー」と悲鳴に似た声をあげたが知るものか。
俺はこの女を許すつもりはない。
面倒は早々に片付けるに限る。
いきなりやってきて責任を取って欲しいなどと言ったくせに今更だ。

俺は早希を傷つけるヤツを許せない。




レイフ・カーヴィンはなんと日本にいた。

三日前に来日して長野県内をまわり、新幹線で東京に戻ってきたところだった。
同じ都内にいたことで一時間も経たずにここにやって来るはずだ。

俺がしたことと言えばここに田所あおいがいると告げただけ。子どもの話はしていない。それは田所あおいが言わなければいけないことだし、俺が説明することではない。

おそらく彼女のことを捜していたのだろう。電話の向こうにいるレイフからは喜びが伝わってきた。

それから田所あおいが逃げ出さないようにレイフがやってくるまでホテルに留まることにした。
すぐにでも早希を連れて帰りたいところだが、しっかりと見届けなければいけない。
今後レイフと彼女の関係がどうなろうと興味はないが、二度と俺を父親だと言わないように彼らには親子の名乗りをしてもらう必要があるし、彼が母子の生活の支えをするべきだと思う。
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