彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
レイフ・カーヴィンは一時間も経たずにやって来た。

「ご連絡感謝します」
タクシーを飛ばしホテルの中も走ってきたのだろう。彼の額には薄らと汗がにじんでいる。

遠縁とはいえ今まで接点はなく初対面。
母の大叔母の孫という関係はかなり遠い縁だ。

年齢は彼の方が上でそろそろ40才になろうかと言うことだが、年齢よりも上に見えるほど肌に張りと艶はない。
離婚するのにかなり手間取ったというし新しく立ち上げた会社のなど苦労があったのだろうか。
なのに、どことなく血のつながりを感じる彼の顔立ちにちょっと驚いた。

俺はイタリア人の祖父が日本人の祖母と結婚したが、彼のところは曾祖父が日本人なのだとか。

「この数年、ずっと彼女を探していたんです。ーーそれで、彼女はどこに?」

「田所さんは隣の部屋ですよ」

数分前に昼寝から目覚めた子どもがぐずりだしたため母親である彼女が宥めているところだ。

「行っても構いませんか」

既に心は向かっているのだろう、隣の部屋をチラチラと窺っている。

「勿論です。我々は帰りますが、よろしければこの部屋は明日のチェックアウトまでお使いください」
「いえ、そのようなーー」
「ご遠慮なく。このままここでゆっくり話し合いをした方がいいと思いますよ」

レイフは知らないが隣の部屋にはまだ幼い子どもがいる。遠慮するレイフに部屋を使うように説得し、俺たちは部屋を出るためにドアに向かう。

「頑張ってください」
「お幸せに」

高橋さんと早希が声を掛け部屋を出て行った。
俺は後日連絡が欲しいと言い添えて部屋を後にしたのだった。
本当はしっかり捕まえて欲しいと言いたかったが我慢しておいた。



3人でエレベーターに乗り込むと口々にため息を吐き出し顔を見合わせて苦笑した。
エレベーターは最上階のスイートルームからエントランスフロアまで直通のため他人が乗ってくる心配はない。

「疲れたわね」
高橋さんがエレベーターの壁にもたれ掛かりこめかみをぐりっと押した。

「ホントね。ーー由衣子ありがとう。由衣子の情報でかなり助かった」
「ああ、本当に。こんなことに巻き込んで二人とも本当に申し訳なかった。二人がいてくれたからこんなにすぐに解決できた。感謝している。本当にありがとう」

普段仕事では冷静な判断ができていると自負しているが、早希が絡むと途端に冷静ではいられなくなることは既に自覚している。
今回のことも一人で対応していたら騒ぎになっていた可能性も否定できない。

早希の冷静な態度とタヌキと高橋さんの情報力。
俺が、ではなく早希の人柄の良さで周囲に恵まれている。

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