政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
ソファやキッチン、ひとつひとつの家具を見る目がじっとりと重たく、部屋の空気までもを変えてしまう。
十三時の日差しが南側の大きな窓から差し込んでいて、とても爽やかなのに、一気に重さを増した雰囲気に自然と喉が鳴る。
背筋が冷たいのは、柳原さんから感じる不気味なオーラのせいだった。
なんだか様子がおかしい。
黒髪を横でひとつに結んだ柳原さんは、白いブラウスに黒のスキニーという服装だった。おそらく制服だろう。
モニター越しではなく、直接面と向かって合わせた顔も、間違いなくあの日白いワンピースでモデルハウスに現れた〝岩渕さん〟だった。
苦々しくしかめた顔で部屋を見ていた柳原さんは、そのままの表情で私を見る。
モデルハウスで会っていることを覚えているにしても忘れているにしても、どうしてこんな顔で見られているのかがわからない。
動かない状況が気持ち悪くて、ひとつ息を吐いてから口を開く。
「あの、すみません。まず整理させてください。あなたは〝岩渕さん〟ではなく、〝柳原さん〟でいいんですよね? お仕事はハウスキーパーをされていて、一年半ほど前から蓮見さんの担当をしていると聞いてますが、合っていますか?」
膠着状態が嫌で切り出すと、柳原さんは持っていたバッグを床に置いた。
掃除をしにきたのなら当たり前の行動だけれど、荷物を置いたということがこのまましばらくはここにいるという未来を予想させ、少しの不安が浮かんだ。
たぶん柳原さんは私に対して好意的じゃない。
その直感は当たっていると告げるように、柳原さんが私を睨んだ。
心から憎々しいと思っている眼差しだった。