政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「一年半、ずっと蓮見さんの担当をしている柳原です」
「そうですか……。あの、失礼を承知でお伺いしたいのですが。先日〝レイドバッグホームズ〟のモデルハウスにいらっしゃいましたよね? その目的は、おっしゃっていた通り、マイホーム購入ですか?」

柳原さんが記入したアンケート用紙の住所や電話番号は嘘だった。

名前も嘘だったのなら、あの時話していた〝ご主人〟の存在ももしかしたら……と思い慎重に聞くと、彼女は悪びれる様子もなくあざ笑う。

「そんなわけないでしょ。っていうか、もう気付いてるくせに随分遠回りに聞くんですね。あの時アンケートに書いたのは全部嘘です。結婚もしていませんし、家を建てる予定もありません。もし建てるにしても、あなたのいる会社でなんて建てません。あれは、あなたの顔を見て名刺をもらうのが目的でした」

私の顔と名刺が目的と聞き、考える。
彼女がどうして私の情報を知りたかったのか。

柳原さんは蓮見さんの家のハウスキーパーを一年半担当していた。でも、私が同居を始めてからの約一ヵ月、依頼は中止されている。

柳原さんがどうやって私の存在を知ったのかは今はいいとして、彼女が私の素性を知りたいと思う理由は……。

「柳原さんは、蓮見さんが好き……ということでいいですか?」

それ以外考えられない。
まさか、私のせいで仕事先がひとつなくなったからなんて理由ではないだろう。

ハッキリと聞いた私に、柳原さんはやや驚いた顔をしてからそれをしかめっ面に変えた。

「あなたに答える義務は……」
「義務はないかもしれませんが、そこをハッキリさせないと今後もやもやします。それに、私に対して目に見えて応戦体勢ですし、見て見ぬふりするのは無理があります。柳原さんだって、あなたがどうしてそんな態度をとっているのか、私がわかっていた方がまだ気持ちが報われませんか?」


< 118 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop