政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
イライラして当たっても、その理由を相手がなにも理解していないのでは無駄でしかない。
そう思ったから言ったのだけれど、柳原さんはますます気に入らなそうに眉を寄せた。
「なにその上から目線……っ。報われるってなに!? 偉そうに言わないで!」
一気に距離を詰めた柳原さんに驚いている間もなく肩を押される。
幸い広いので、後ろに数歩よろけたところで何にもぶつかることはなかった。けれど、不幸にも……というべきか、まだ残っているめまいのせいで平衡感覚を崩しそのまま倒れてしまった。
そのはずみでソファの前のローテーブルに顔をぶつける。
ガラスの天板の角は丸みがあるとはいえ、ちょうど角に頬をぶつけたので、それなりの痛みがあり思わず「痛……」と声がもれた。
衝撃で歯が当たり内頬が切れたせいで、口の中に血の味が広がる。
まだ視界も脳もぐらついて立てる状態じゃないため、座り込んだまま状況を整理する。
部屋が広くて幸いだった、なんて思ったけれど、それ以外はタイミングだとか打ちどころだとかなかなか運が悪かったなと思いながら頬に触れる。
たぶん、少しは痣になるかもしれない。
顔だし接客業としてはあまりよくない。目立つ場所に湿布なんて貼っていたらおかしな心配をされたり、蓮見さんがあらぬ疑いをかけられる可能性もある。
どうにかファンデーションの厚塗りでごまかせる程度だといいな、と考えていて、柳原さんの存在を思い出す。
ハッとして、床に座ったまままだグラつく視界をなんとか上にずらすとすぐに目が合った。
明らかに動揺している様子に笑顔を作ろうとして、頬の痛みに邪魔される。
「うー……」と口の中でうなってから、再度笑顔を作った。
今度は成功した。