政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「大丈夫です。……すみません。ひとりで勝手によろけて転んだだけですし、気にしないでください」

柳原さんに突き飛ばされたあと、一度は踏みとどまった。だからこの転倒はめまいによるものだし、別問題だ。

そう説明してゆっくりと立ち上がる。すぐに冷やした方が痣になりにくいと思い冷蔵庫に向かおうとして、それを柳原さんが止めた。

「座っててください。氷なら私が……その、万が一、頭も打っていたりしたら動かない方がいいので」

お言葉に甘えてソファに座っていると、柳原さんは自分のバッグから透明なビニール袋を取り出し、そこに製氷室からすくった氷を入れる。

そして、それをタオルで包むと、遠慮がちに私のところまで持ってきてくれた。

「ありがとうございます。助かります」
「……いえ。あなたがどう言おうと私にも責任の一端はあると思うので。気分はどうですか? 話していて、骨とかに問題はなさそうですか?」

バツが悪そうな顔をしながらも心配してくれる柳原さんに自然と頬が緩んだせいで、また痛みが走った。

同居人の蓮見さんが硬派な人でよかったと思う。
お笑い芸人だったら今日から数日地獄を見るところだった。

「骨は大丈夫だと思います。おかしな気持ち悪さもないです。……すみません、掃除にきたのに私の世話まで焼かせてしまって。でも、ひとりだったら心細かったと思うので柳原さんがいてくれて助かりました」

頬に当てたタオルからじわじわと冷たさが頬に広がる。
ジンジンしていた痛みが、氷のおかげで緩和されていくのがわかった。

内頬はすでにもう腫れているのか、傷口が歯に当たって痛い。

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