政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


『ここの空調は合わないか?』

そう聞かれたことを思い出す。
問題ないと答えた私に、蓮見さんはいつも通り『そうか』と答えただけだったけれど……今思えば、その声には少しの安堵がこもっていたかもしれない。

つまり蓮見さんは、同居を始める前に父から私の話を聞いて引っ越していてくれたということになる。

わかりにくいけれど根は優しい人だから、大事にしてくれているのは私も一緒に過ごした時間のなかで気付いていた。

でも、まさかそこまでしてくれていたなんて思わなかっただけに困惑から言葉が出てこない。

「だから、初めて今の部屋に入ったときは驚いた。だって、私が週に何度も磨いていた家具はひとつもなかったから。ダイニングテーブルもソファもラグも……全部新調されていて、私が知っているものは何ひとつなくなっていたわ」
「えっ、家具全部……?」
「ええ。だから余計に……私との時間を蓮見さんが簡単に捨てたんだと思えちゃって、暴走したのよね」

柳原さんは自嘲した笑みを浮かべた。
私は一度目を伏せ、少し考えてからまた柳原さんと視線を合わせた。

「でも、蓮見さんは部屋も家具も今まで使っていたものだって私には説明しました。生活感がないのも、寝に帰ってきていただけだからって……」

まだ動揺から抜け出せないまま言った私に、柳原さんがあきれたように笑う。

「そんなの、気を遣わせないために決まってるじゃない。それか……引っ越しや家具の新調を宮澤さんに知られるのが恥ずかしかったとか? ううん、そんな性格じゃないわね」
「恥ずかしいとかはないと思います。でも……そうですね。気を遣わせないためっていうのはあるかもしれません」

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