政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「大祐さんがドレスの生地や形に詳しくて驚きました」
私は女性なので、ドレスの型はいくつか知っているけれど、男性はひとつも知らない人がほとんどではないかと思う。
生地に至っては、女性だって多くはシルクやサテンくらいしか知らないだろう。
それなのに大祐さんの口からは〝ベルライン〟だとか〝ジョーゼット〟だとか、私でも知らない単語が出てきていた。
そのせいで、御園のギアが一段階上がった感は否めない。
「春乃が試着している間にカタログから得た知識だ。元から知っていたわけではない」
「すごい記憶力と対応力ですね……」
「普通だ」
少なくとも今まで私の周りでそんな人はいなかったので、普通ではないと思う。
十年前の私のことを覚えていたのもその辺の能力のせいかもしれないな、と考えていると、少しの沈黙のあと、蓮見さんが「奪い合うほど好きだったのか」と聞いた。
「え?」
「〝戸村くん〟の話をしていただろう」
〝BLOSSOM〟の店内には薄くBGMが流れてはいたけれど、お客さんは私たちだけだったし他のスタッフも奥の部屋にいたから静かだった。
私がいくら声を潜めてもカーテン越しに聞こえていたんだろうとすぐに思い至り、苦笑いを浮かべた。