政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「中等部に入った頃に母に教わりました。それまでお米のとぎ方も知らなかったので、それなりに作れるようになるまでだいぶ時間はかかりましたけど」
「その頃になにか心境の変化でもあったのか?」

突っ込んだことを聞かれ、チラッと蓮見さんを見る。
でも彼はいつものように淡々として見えたので、きっと深い意味はなかったのだろうと判断した。

『お母さん、料理教えて』

中等部から帰宅するなり私が並々ならぬ決意を持って言ったのは、一年生の五月頃。
授業の調理実習でみじん切りをしていたとき、うっかり左手の人差し指を切ってしまい四針縫うケガをしたことがあった。

その翌日登校すると私のケガはちょっとした噂になっていて、しかも、そこには〝やっぱりお嬢様だから料理なんてしたことないんじゃない?〟というような余計なものがついて回っていたので、頭にきて……という流れだ。

事実そうだったから、だからこそそのままでいるのは嫌だった。

当時十二歳だ。キッチンに立った経験のある生徒とそうじゃない生徒は半々だっただろう。そこまで気に病むことではない。

それでも言われっぱなしは気に入らなったので、その日から必死に母に教わった。
料理が上達した暁には、噂を楽しんでいた生徒を捕まえて披露したいというわけではなく、ただ自分が納得して満足できればそれでよしとしていたのは、祖父の〝沈黙は金〟を守っていたからだ。

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