政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「春乃?」
「シャワー浴びて寝るので、蓮見さんは先に寝ててください。おやすみなさい」

早口に伝えて寝室を出る。

危ない。うっかり体どころか心まで許すところだった。
私の負けず嫌いが発動したせいで結果的に関係は持ってしまったけれど、ほだされるつもりはない。

あれは、あくまでも性欲をぶつけるだけの行為であって、愛も恋も関係ないのだから私と蓮見さんの間にピロートークなんて甘ったるい時間は必要ないのだ。

割り切らないと。
あんなの売られた喧嘩を買ったまでのことで、たいしたことじゃないのだと、未だ甘い熱を引きずったままの自分に言い聞かせる。

パジャマを脱ぎ、今日二度目のシャワーを浴びる。ついでにまだお湯を張ったままの湯船につかり大きく息をついた。

……体が熱い。

まさか自分が好きでもない人と体を重ねても抵抗を感じないタイプだとは思ってもみなかった。
今まで恋人以外としたことなんてもちろんないし、こういう行為は愛情あってこそだとも思っていたのに……。

蓮見さんとしたさっきのがこれまでで一番気持ちがよかったなんてどうかしてる。

『春乃』

私を呼ぶ低く艶めいた声には愛情なんて含まれていないはずなのに、たしかにそれと近いものを感じたのなんて、とろとろに溶けきった脳が原因で起こった幻聴だ。

私を見つめる真剣な瞳にも、大事なものを扱うように触れる指先にも、特別な感情なんてものは一切込められているはずがないのだから。

全部全部、幻覚だ。

「はー……しっかりしなくちゃ」

蓮見さんから婚約破棄の言葉を引き出さなくちゃならないんだから。
独り言を呟いても火照った体の熱はなかなか冷めなくて、大きなため息だけがお風呂に響いていた。


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