愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
祥さんは強引なところはあるけれど、きちんとわたしの話も聞いてくれる。なんだかんだとわたしのことを気遣ってくれている。

彼がわたしに向ける優しさは本物。たとえそこに『男女の愛』はなくとも、『夫婦愛』なら少しずつ芽生えてきていると思う。わたしのことを『絶対に守る』と、彼は言ってくれたのだから。

「たとえ誰が何を言っても、わたしは森乃やには戻りません」

きっぱりとそう言い切ると、荒尾は両目を見張ったあと「ちっ」と舌を鳴らした。そしてさっきまでとは打って変わった鋭い目つきでこちらをねめつけてくる。

「うるさい。つべこべ言わずに俺と一緒に来い、おまえが居なければ俺は……」

「いやっ」

言いながら荒尾がこちらに伸ばした手を反射的に振り払った。「バチン」と思いのほか大きな音がし、一瞬彼の動きが止まる。その隙にすかさず身をひるがえしたわたしは、その場から駆けだした。

後ろから荒尾の叫ぶ声が聞こえたけれど、振り向かずに停まっていたタクシーに飛び乗ると、「すぐに出してくださいっ!」と運転手に頼んだ。

タクシーのそばまで駆け寄ってくる荒尾の姿が視界の端に映ったけれど、わたしは振り返ってみることも出来ず、小刻みに震える両手を硬く握りしめていた。

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