愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
初めて目にする離婚届。

緑一色で囲まれた枠の中は埋まってはいない―――ただ一か所(・・・・・)を除いて。

なぜか『証人』の欄の左側にだけ、『香月祐』と祥さんのお父さまの名前が入っていた。

「どういうこと……」

まるで、いつでも離婚が出来るようにとあらかじめ用意してあるみたい。

「祥さんはわたしと離婚するつもり……だった?」

いや、『だった』と過去形にしたのは、お腹の中に彼の赤ちゃんがいるから。彼は自分の子を宿した相手を簡単に切り捨てるような無責任なひとではない。

だけどもし……もし今わたしが妊娠していなければ―――

彼にとって必要がなくなれば、わたしと離婚することを考えていたのかもしれない。
荒尾との結婚も森乃や存続の危機も、どちらも救ったあとなら十分あり得る。彼は別にわたしが結婚相手じゃなくても、構わないのだから。

彼にもっと素晴らしい別のお相手が見つかる可能性だってあるのだ。

頭がぐらぐらとして、足元が揺れる。
強い吐き気に襲われて「うっ」と口元を押さえながら、わたしは二階の洗面室に飛び込んだ。


***

それからしばらくの間は、寝室で横になっていたけれど、キングサイズのベッドの空いたスペースがやけに広く感じて眠れなかった。

仕方なく寝室を出て一階に降りる。
けれど、広すぎると感じたのはベッドだけじゃなかった。ダイニングテーブルもリビングのソファーも、家の中のすべてがガランと広く、どこにいてもまったく落ち着かない。
ついさっきまで爽やかだと感じていたエアコンの風すら薄ら寒くて、わたしを落ち着かなくさせた。

どこにも自分の居場所がないような感覚。
この家に来て最初の頃以来だ、そんなふうに感じるのは。

気が付いたら足が、外へと向かっていた。

< 150 / 225 >

この作品をシェア

pagetop