愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
ひとが真面目に話しているのに、揶揄ってくるなんて。

「真面目に聞いてくださいっ!」と怒ると、彼はおもむろにわたしを抱え上げた。
何の前触れもなく突然高くなった視界に、「きゃっ!」と声を上げて彼の頭にしがみ付くと―――。

「やっぱりしっぽはないな」

「ありまっせん!」

「まあ、こんなに可愛い仔ダヌキなら化かされたままでもいいか」

「~~~っ」

さっきとは違う意味で顔を赤くしたわたしに、彼は「そう怒るな、あの時も同じことを思ったんだ」と言う。

「あの時……?」

「ああ、寿々那に最初に会った時だ」

「あっ!」

わたしはやっと気が付いた。彼はわたしが聞きたかったことを教えようとしているのだと。

「森乃やの庭の奥、庭木に囲まれて表からは見えない場所に、おかっぱ頭の日本人形みたいな女の子が庭石の上にちょこんと座っていた」

「おかっぱの日本人形って……」

「あまりに動かないからもしかしたら人形なのかと思ったが、しばらく観察したら動いているのが分かって。そうこうしているうちにおまえの方が俺に気が付いて声をかけてきた。『おにいちゃまはだぁれ?』ってな。少しは思い出したか?」

祥さんに訊ねられ、わたしは必死に記憶を手繰り寄せたけれど、全然思い出せない。
何せ森乃や(うち)は、その頃は飛ぶ鳥を落とす勢いのある老舗料亭だったのだ。毎日お客さまから仕入先の業者など、多くの人が入れ替わり立ち代わり出入りしていたせいで、幼いわたしの記憶に残らなかったのかもしれない。

それでもなお、思い出そうとするわたしに、祥さんは「まあ、四歳じゃ仕方ないか」と言った。
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