愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「寿々那」
祥さんがこちらに気付いて振り向いた。声をかけられてハッと我に返り、慌てて小走りで彼のもとへと向かう。
「ごめんなさいっ、かなりお待たせしてしまいましたよね……」
「いや、そうでもない。俺もついさっき来たところだ」
「本当ですか?」
わたしに気を使ってそう言っているのでは?
うかがうようにじっと見上げていたら、頬を指の背でなでられる。
「ふわっ!?」
「顔が赤い。長風呂でのぼせたんじゃないのか?」
「え、いや、これは……」
あなたに見惚れていたからです――とは言えない。
「大丈夫です、ちょっと熱いだけなので……。祥さんの言った通り、とてもよいお湯でした」
そう言って手でパタパタと仰ぐ真似をしていると、祥さんがじっと見つめてくる。「本当ですよ」と念を押そうと口を開きかけたが、彼が言う方が早かった。
「きれいだな」
不意打ちの言葉に「え?」と戸惑ったけれど、すぐに「ああ」と得心する。
視線を庭に向けたら、そこには夕陽を受けてキラキラと輝く待月池が。
「本当ですね。月を待たなくても十分美しいですよね」
青空の下の庭もよかったけれど、黄昏時もまた違う趣きがあるな――なんて、うっとりしながら思っている。
「ちがう」
「え?」
隣を振り仰いだら、切れ長の瞳と目が合った。