愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「浴衣、よく似合っている。とてもきれいだ」

「あ……」

彼の視線がゆっくりと下へと下りるから、つられてつい自分を見下ろす。
身に着けているのは、クリーム色の生地に花柄が入った色浴衣。お風呂上りに用意されてあったもののうちから選んだものだ。

そう言えば、祥さんが最初に言った通り、温泉に入るのに必要な物はすべて大浴場にそろっていた。この色浴衣をはじめ、着替えや化粧道具一式も。

彼は最初からこの月香館に泊まるつもりでわたしを連れてきたのだ。強引なところは相変わらずだけど、それで嫌な思いをしたことは一度もない。
わたしに不便がないように手配をしてくれているところも、結婚前から何ひとつ変わらないのだ。

そもそも結婚当初からなにも変わらないのだ、彼は。
五年が経って四十間近だというのに、スタイルは変わらず抜群だし、相変わらず見惚れるほど整った顔をしている。
むしろ年齢を重ねたぶん渋さが加わっており、ますます素敵になった。

そんな彼の妻を務めるわたしが、こんなに普通で大丈夫なのだろうか。
そう疑問に思うときもあるけれど、それ以上に彼がわたしに惜しみない愛情を注いでくれるから、不安に思う暇なんてないのだ。

「ありがとうございます」

彼を見上げてにっこりと微笑んでお礼を言う。すると彼は軽く目を見張ったのち、「ふ~~」と長い息をついてから口を開いた。

「湯上りの浴衣の威力か……。悠長に月が出るのを待っていられそうにないな……」

「えっ⁉」

「今すぐ部屋に戻ろうか」

「え、あ……も、もうお食事の時間なんですね! お部屋食なんですか?」

「いや、食事は別の場所に用意するように言ってあったが……やっぱりもう少し後に、部屋まで運ぶようにしてもらお――」

「わわわっ……、なんだかとてもお腹すいちゃったな~!温泉効果かも! さ、祥さん!お食事の場所はどこなんですか? ご案内お願いしますね!」

彼のたくらみをなんとなく察知したわたしは、彼を急き立てるようにして夕食の場所へと向かった。
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