愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
手の中のグラスから顔を上げ、彼の目を真っすぐ見つめて口を開く。

「わたし……病院に行こうと思います」

ハッキリとした口調で言うと、祥さんが眉を跳ね上げた。

「どこか悪いのか⁉」

「いえ、そうではなくて……婦人科に行こうと思っていて……」

祥さんが息をのみ、両目を大きく見張る。驚きからみるみる喜びに変わっていくのを見て、わたしは慌てて彼の勘違いを止めに入った。

「違いますっ!赤ちゃんができたから行くんじゃありません! できないから行こうと思うんです!」

前のめりになった姿勢を元に戻し、ふぅっと息をつく。そして、「あれからもう二年以上経ちますし」と小さく言い添えた。

わたしは幸を産んだ後、実家には帰らず東京の自宅に戻ることにした。
その頃はちょうど、ひと月先に妹が里帰り出産したばかりで、両親は森乃やと妹親子のことで大変な時期だったから。
幸い、自宅では祥さんが井上さん以外にもシッターさんを雇ってくれたため、なんとか乗り切ることができた。

けれど、周りに親しい人が居ない中での初めての育児は、思っていたよりも負担が大きかったのかもしれない。

当時のわたしはそれに気づかず、“母親としても妻としても、きちんとしなければ”と、常に気持ちを張りつめていた。

そうして二年経ったころだった。

突然の下半身の激痛と大量の出血。
運ばれた病院で処置を受けて初めて知ったのだ。自分が妊娠していたことに。

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