エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「やっと、千春らしくなってきたな」

 その言葉と優しい眼差しに千春は胸を突かれたような心地がする。
 ずっと以前、ふたりはよく病室で、こうやってたわいもない言い合いをした。

「まぁ、今日だけは許してやる」

 清司郎が少しもったいぶってそう言って、千春から本を取り上げた。
「だけどこれは明日の朝まで没収だ」
 千春は素直に頷いた。

「わかったわ」

 残念だけど仕方がない。殺人事件のトリックの解決編は明日までお預けだ。
 すると清司郎が本のタイトルを見て首を傾げた。

「これ親父の本か?」

「そうよ、書斎の本は好きに読んでいいって言ってくださったの」

「相当古そうだけど」

「古くても面白さには関係ないわ! このシリーズ、私ハマっちゃった」

 康二の書斎にあるのは医学の専門書を除けばほとんどがミステリーだった。
 中には千春が生まれる前に書かれた物もあるが、その分名作が多かった。特に今千春が読んでいるシリーズは毎回出てくるトリックが緻密で、ページめくる手が止まらない。
 さっき千春は寝る前に少しだけと思いこの本を開いた。それなのに、いつのまにかこんな時間になっていたのだ。
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