外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 もやもやとした気分でエントランスを抜け、エレベーターに乗って自宅を目指す。

 カードキーで玄関を入り、気が抜けたように閉めたドアにもたれかかった。

 妊娠が確定して、これからどうするか悩みながら帰ってきたら、モルディブにいたはずの晶さんの同僚がなぜかマンションの下にいるのを目撃するという衝撃。ドッと疲れが押し寄せる。


「美鈴?」

「晶さん……」


 玄関を上がったところでいるはずのない晶さんが奥から現れ、落ち着かない心臓が大きく高鳴った。


「帰られてたんですね」


 平静を装いながら、無意識にバッグを持つ手に力が入る。

 中に病院での診察記録、エコー写真などを持っているからだ。絶対に見つかってはいけない。


「この間の休日出勤の代休が急に取れたんだ。美鈴は、出かけてたのか。仕事?」

「あ、はい。そんなところです」


 急な代休と聞き、今エントランス前で見た女性の顔が過る。


 やっぱり、彼女と会っていたの……?


 そんなこと訊けるはずもなく、俯き加減でスリッパに足を突っ込む。

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