外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
ホテルが気を遣って手配してくれたタクシーに乗り込み、在モルディブ日本国大使館へと向かう。
たくさんの路地が碁盤の目のように走るマーレは、人々の足としてバイクが多く活躍している。近年は車も増えてきたというが、まだまだバイクが圧倒的だ。
日本大使館がある場所は、官庁関係の建物が集まる海沿いで、立ち並ぶ大きなビルのそのひとつの中にあった。
タクシーを降り、重い足取りで館内エレベーターへと向かう。
これまで、海外滞在中に大使館を訪れるようなトラブルに巻き込まれたことはなかった。そのせいか少し緊張にも襲われ始める。
なにより、大切なカメラが無くなってしまったことが相当ショックで立ち直れない。
セイフティーボックスに入れていた貴重品が残されていただけでも良かったと思うべきかもしれないけれど、無くなったあのカメラはそれと同等に大事なものなのだ。
八階に到着し、領事窓口へと向かう。
先客の姿はなく、顔を出した私に気づいた女性が窓口へと奥から向かってきたのを目に、とりあえずぺこりと頭を下げた。