外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「それでは、何かありましたらご連絡させていただきます」

「はい。よろしくお願いします」


 腰を上げながら「ありがとうございました」とお礼を口にする。


「見つかるといいですね」


 不意にかけられた言葉に、椅子をしまっていた顔を上げる。

 涼しげな大河内さんの目がじっと私を見つめていて、不覚にもどきりと心臓が跳ねた。

 切れ長の目には、よく見ないとわからない程度に優しさを滲ませている。

 被害に遭ってからずっと気を張ってきた時間の中で、こうして人の温かさに触れるのはグッときてしまう。

 これまで事務的に話していた相手からの気遣いは、余計に私の涙を誘った。


「ありがとうございます。お世話になりました」


 でも、こんなところで涙を見せるわけにもいかず、込み上げるものを誤魔化すように呑み込む。椅子を直し、最後にぺこりと頭を下げてその場をあとにした。

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