外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 大使館を出た後、特に目的もなく港沿いに走っている通りを歩いていった。

 そのうちに見えてきたのは、立派な屋根のついた白い突堤。持っていたガイドを見れば、それは大統領専用桟橋『No. 1 Jetty(ジェッティ)』と記されている。

 手持ちのカメラで海をバックに白い屋根を入れて何枚か撮影し、またふらりと歩きだした。

 手元に戻ってくる可能性は……たぶん、二十パーセントもないよね、きっと。

 見つかればいいと気遣いの言葉をかけてもらったけれど、ほとんどが見つからないケースだと言っていた。

 こんなことになるなら、部屋に置いておかないで持って歩いていればよかった。

 置いておくにしても、ワードローブに仕舞っておけば狙われなかったかもしれない。

 たらればの話をいくら考えても仕方ないけれど、まさか宿泊中の部屋に空き巣が入り、その中であのカメラを持っていくなんて思いもしなかった。

 No. 1 Jettyの正面に位置する共和国広場に入っていくと、夕方に差しかかる時間でも多く人の姿が見られる。

 木陰になっているベンチを見つけて腰掛け、近くで母親に連れられ遊んでいる地元の子どもに目を向けた。

 くりくりとした目の三歳くらいの女の子は、集まっている鳩を触ろうと追いかけている。

 微笑ましい光景を目にして再びカメラを構えた時──。

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