外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「嘉門さん」


 近くから名前を呼ばれ、構えたカメラを下ろした。


「あっ……」


 振り向いた先に立っていたのは、さっき大使館でお世話になった大河内さん。仕事帰りだろうか、片手には黒いビジネス鞄を下げている。


「よく会いますね」

「確かに。あの、先ほどはお世話になりました」


 大河内さんは「いえ」と短く返事をすると、私の掛けているベンチのすぐそばまでやってくる。


「何してるんですか、こんなところで」

「あ……特に、何もしてないんですけど、気が向いたら撮影しつつ」


 問われて初めて、自分が相当ぼんやりとして過ごしていたことに気がつく。

 手元の時計にちらりと目を落とすと、大使館を出てからもう一時間以上が経過していた。


「大河内さんは……お仕事帰りですか?」

「ええ、そんなところです」

「お疲れ様です」


 私もいつまでもぼうっとしてないで、ホテルに戻って仕事のメールチェックしなくちゃ。

 あ、でもその前に……。

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