外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「すみません。食事を誘ったわけではなくて、その、お店を知りたかっただけで」
「ご迷惑でしたか?」
「え?」
進行方向を見つめていた大河内さんの顔が私へと向き、バチリと視線が重なり合う。
奥二重の形の整ったシャープな目元に、密かにどきりと鼓動が跳ねた。
「いや、私が迷惑とかは全然! ただ、気を遣わせてしまったと思って申し訳なくて」
「気を遣う?」
「慣れない国で困っている日本人を助けてやろうみたいな、仕事柄の正義感なのかなと」
そう言うと、大河内さんはさっきのようにまたフッと薄い唇を緩めて笑う。
そんな面白いことを言ってしまったかと思った矢先、「嘉門さんは面白い方ですね」とやっぱり言われてしまった。
「別にそういうつもりはありません。この国へはおひとりでの仕事と伺っていましたし、一緒に食事をする相手がいないのなら、付き合っていただけたら私も都合が良かったというだけで」
私が単身でモルディブに来ているということは大使館でちらりと話したけれど、どうやらそれを覚えていてくれたらしい。