過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「ごめんなさい」
「美香が謝ることなんて何もない」

しばらくして落ち着いてくると、そっと拓斗から体を離した。

やはり、朔也についてちゃんと考えなければいけないと思う。
私は一体、彼の何を見ていたのだろうか。どうして信頼し合っているなどと思えたのか。今となっては何もわからなくなってしまった。

それより、彼の犯した不正についてだ。
自分の評価がこれによってどうなるかなどは、正直もう興味はない。フェリーチェ内での私の評価が見直されたところで、今さら誰かに得があるわけでもないから。

でも、これが黙殺され続けて、久々莉をはじめ実力を認められてフェリーチェに勤めている人たちが不利益を被るような事態だけは起こさせてはいけない。

「桐嶋さんは、三崎春乃さんとの仲を守るためだけでなく、仕事上で不都合な存在となりつつあった私を切り捨てるために、陥れようと画策していたかもしれませんね。彼の悪行は、いずれ露呈していた可能性もあるでしょうし」

パリへの研修が無事に終わっていれば、私自身の評価も変わってきたかもしれない。
作品が認められていけば、過去に手掛けたドレスに目を向ける人も出てくるだろう。写真と評価や感想とともにまとめられたデザイナー各自のポートフォリオに、違和感を抱く人もいるかもしれない。

元より、久々莉はエテルナを疑問視していた節がある。彼女が朔也をよく思っていないのはなんとなく感じていたが、それは浮気を疑っていたからだけではないのかもしれない。

どこか自嘲気味な口調になってしまうのは、朔也の裏の顔を見破られなかった自分が情けないせいもある。
俯く私の手を、拓斗がそっと握った。

朔也と出会って以来、これまでのことが思い出される。
彼の笑顔が、たしかに好きだった。お互い忙しくて会える日が少ない分、たくさん話をしようと意図的にしてきたし、自分だけでなく彼の話も引き出すように心がけていた。どれだけ一緒に過ごしたかが大事なのではなくて、どう過ごしたのかが大事なのだと信じて。

築いてきたふたりの関係は、簡単に壊れないものだと当たり前のように思っていたのは、ひとりよがりにすぎなかった。笑顔で私を励ます裏で、朔也は何を思っていたのだろうか。

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